ダンテの森    
06 May 2017   11:57:37 am
トランプに消されるEnergy Star
誰でも見かけた事がある米国製の電化製品に着けられているエネルギースター
Energy Starマークは省エネを示すものだが、これがトランプ政権のやり玉に挙げられ、消えることになりそうである。
(2017年5月4日のエール360に投稿されたマーク・ガンサー氏の記事から)

 今から25年前の1992年、アメリカ製品と言うと何でもエネルギーをバカ食いするものとばかり思っていたところに、時のジョージ H. W. ブッシュ政権のもとで環境保護局(EPA)の肝いりでアメリカ産業界に導入された。青地に白色でEnergy Starと書かれたシールは、省エネルギーブームであった日本では、やっとアメリカも重い腰を上げたかと受け止めたものであった。現在、全米1万6千社がこのプログラムに名を連ね、省エネデザインと認定された製品にはエネルギースター・シールを貼って販売することができる。消費者は、このシールが貼られた製品を購入する事で電気代が節約できることになり、省エネされた分だけ電力消費が減り電気を作るためのCO2発生量が少なくなり、地球環境保護に役立つと言うプログラムであり、日本の環境省もEPAの呼びかけに応じて1995年から参加している。

 EPAはこのプログラムの為に年間67億円(ドル122円として)の予算を使っているが、EPAによると31%の省エネが達成され、年間980億円のエネルギー代金が節約されているとしている。このプログラムはあくまでも自主規制であって法的規制では無く、各企業は自主的に参加している。企業にとっては、この青いシールを貼る事で自社製品を差別化することができ、自社が社会貢献をしていることを示すと同時に、新たな顧客層の獲得を狙うことができる。導入から25年経ってすっかり定着したプログラムである。

 トランプ陣営が選挙戦でEPAがやっていることは国民から職場を奪っているとし、地球温暖化など糞くらえだとEPAを無くすとまで言い支持者の声援を得ている。エネルギースターのシールが貼られた高い製品を買う事ができるのは、富裕層であり、彼らが安い電気代で済ますことでそのしわ寄せはエネルギー効率の悪い安い製品や、古い製品を使っている貧困層に回っているとするのが、彼らの論理である。また、トランプ陣営は、本来地球温暖化そのものが科学者が作った想像の産物であるとしており、その存在すら認めておらずそんな事に予算を使うEPAは無駄以外の何物でもない。CO2をどんどん出す石炭火力発電所を復活させることで、米国の炭鉱が復活でき職場が復活できると言って支持を得ている。

 エネルギースターは全米45万の商業ビルにも広まっている。省エネ対策をした商業ビルにはエネルギースターの表示ができ、エネルギー代金を支払うテナントは少しでもランニングコストの安いビルを探すため、ビルオーナーは競って省エネ対策をしている。この商業ビルのエネルギースタープログラムは100%自主的とは言えなくなってきている。と、言うのはニューヨーク、シカゴ、ロスアンゼルス、サンフランシスコなど地方自治体の一部が義務付けしているところが出てきているからである。トランプ政権はこの地方自治体による規制も取り去ることにしている。因みにトランプの保有する15の超高層ビルは、エネルギースター評価基準を100とした場合その11のビルは50以下で、マンハッタンのメイフェアホテルビルに至っては1点しか取れない。これを見て分かるのはトランプ氏の環境嫌いは筋金入りであると言う事である。
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01 Apr 2017   07:46:41 pm
トランプ大統領の誤算
トランプ大統領が地球温暖化対策を見直す大統領に署名
ブログ管理人

 去る3月28日ドナルド・トランプ米大統領は、オバマ前政権が推進した地球温暖化対策を目的とした規制の見直しをして米国内の化石燃料産業の振興を目指す大統領令に署名した。

 この日初めて訪れたEPAで、ウエストバージニア州の炭鉱労働者の代表とスコット・プルイット環境保護局(EPA)長官が見守るなか大統領令に署名したトランプ氏は「わが政権は石炭産業に対する戦争を終わらせる。政府の介入をやめ、雇用を失わせる規制を撤廃するため、米国のエネルギーに対する制限を撤廃すると言う歴史的な一歩を踏み出した。」と述べた。

 昨年11月の大統領選でウエストバージニア州はヒラリー・クリントンの3倍以上の大差でトランプ氏を選んだ。その理由は政府の政策転換により同州の石炭産業を復活させると言う選挙キャンペーンが功を奏したからである。同州の炭鉱労働者達はこぞってトランプの選挙戦を応援した。

 しかし、同州の石炭産業の衰退はオバマ政権がはじまるずーっと以前から始まっていた。第二次大戦以前に活況を呈した炭鉱は大戦の終了と共に徐々に低迷を始めた。全米的には石炭の生産がまだ増加を続けていた1980年代にあっても同州の石炭生産量は減少を続けている。その主たる理由は採炭の方法の転換にある。ウエストバージニア州の炭鉱は地下炭鉱で地下深く鉱道を掘り進めて行く方法で採炭コストが高い。この頃ワイオミング州で始まった山の山頂から爆破して山を取り除き炭鉱を露出させて重機を使って大量に採炭する露天掘りが始まった為である。

 現在のウエストバージニア州の最大の産業はと言うと医療サービスであり州内の勤労者6人に1人は医療サービスに従事している。同州の平均年齢は高く人口の22%が健康保険サービスを受給しており全米平均の16.7%に較べても高水準である。非保険加入者率は2013年には14%であったが2015年には6%に減少しており大きくオバマケアの恩恵に浴しており、トランプ大統領が先に廃止しようとして自党である共和党からの賛同も得られず採決さえ行われなかったオバマケアの撤廃法案が若し通過していたとすれば同州の老人たちは最も大きな犠牲を強いられるところであった。

 今回のトランプの反地球温暖化対策の大統領令がいくばくかの炭鉱労働者を炭鉱に送り戻す事ができたとしても、同州の石炭は米国内での市場競争力が無い事から同州の石炭産業の復興にはつながらない。炭鉱の州と言うノスタルジーに訴えた選挙戦術に乗せられた選挙民たちは、これらの現実の数字には目を向ける事が無かった。トランプの選挙キャンペーンは全てセンチメンタリズムとノスタルジーに訴えるものが多く数値や科学的データは忌み嫌う傾向にある。居酒屋での政治論議は得てしてそんなものであるからだ。全米炭鉱労働者の数は75,000人に対し再生可能エネルギー従事者は600,000人であるが、トランプ氏にかかるとそんな数字は「嘘っぱちだ」と一蹴される。

 全米の火力発電所の中で旧式の石炭火力発電所は2015年までに約40GWが閉鎖されさらに40GWが閉鎖する予定になっている。新設予定であった20GWの石炭火力はキャンセルされ天然ガス火力発電に転換する事が決まっている。これは何も地球温暖化対策だけでなく発電所としての採算性の問題である。米国のAnnual Energy Outlook 2015によると石炭火力の発電コストは1MWh(メガワット時)あたり95〜150ドルである。

 一方再生可能エネルギーの価格は低下の一方である。陸上風力発電は1MWhあたり50〜70ドルである。最新の太陽光発電プロジェクトでの発電コストは1MWhあたり30ドル(2016年メキシコ)を割るところまで来ており、太陽光発電は今や最も安い電力供給源となった。発電所は営利事業であるので発電コストは安ければ安いほど良いに決まっており、これから新規の発電所を石炭火力にすると言う選択は今や考えられない。ちなみに原発は311の福島事故以来安全対策コストの急激な増加の為に建設コストと保守コストが高騰しており、最新のプロジェクトである英国ヒンクリー原発が2023年に稼働を開始する時には155ドル以上になると見積もられている。このように電力業界において再生可能エネルギーが最も安価なエネルギー源になるのは時間の問題で、世界はいやおうなくそちらの方向に進んでいる。

 ウエストバージニア州の選挙民は間もなくこの事実に気付き、前回の大統領選でセンチメントとノスタルジーに浮かされて間違った選択をしてしまった事を後悔することになるだろう。
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20 Feb 2017   07:39:12 pm
ドイツ市民の誇り
 1月の半ばにドイツに行ってきた。目的は2つあり、一つはシーメンス時代からの友人が70歳の誕生日を祝うので来ないかとの誘いに応じたことと、一昨年以来会っていない環境学の師ヴァイツゼッカー博士と会う為である。同い年の友人は私が辞めたのと同じ頃1990年頃にシーメンスを辞めてミュンヘン工科大の教授をしていた。65歳で退官してこれも私と同じく年金生活に入っている。

 彼の家はミュンヘン市の南8kmに位置する人口1万4千人ほどの小さな町(ゲマインデ)にある。郊外電車S-Bahnでミュンヘンの中心から20分ほどの距離のミュンヘンの典型的なベッドタウンである。日本のベッドタウンは一戸建てと中層マンションが主であるがドイツではテラスハウス式の分譲住宅が普通である。私の友人の家も御多分に漏れずテラスハウスである。地階、一階、二階、屋根裏部屋の四層で隣家とは壁で繋がっており、北側には小さな前庭があり南側にはかなり広い裏庭がある。隣の庭とは低い植え込みが有る程度で行き来も可能である。

 この家の北側は道路でその向こうはサッカー場が6面は取れそうな広さの牧草地が広がっていてそれが彼の自慢であった。その牧草地の向こう側の端にいくつかの建築物が出来ていた。2年前には無かったのものであるので聞いて見るとシリア難民の為に建てた集合住宅だと言う。この人口1万4千人の町で500人の難民を受け入れたのだそうだ。最初は街の体育館と空気で膨らます巨大なテントに収容していたが、街の議会は住宅を作る事を決定した。初めの案では将来公共サービスに供する事の出来る恒久建築をと言う意見も有ったが、撤去が簡単な木造建築となった。(写真)


 ドイツでは難民保護施設のことをアジールと呼んでいる。この言葉を辞書で引くとアジール【(ドイツ)Asyl】とは。犯罪人や奴隷・債務者などが、報復などの制裁から保護を受けられるように慣習的に認められた場所。中世ヨーロッパにおける教会・聖地・自治都市などが代表的な例で、法体系の整備とともに消滅した。聖庇。と出ている。ギリシャ語の不可侵asylonに由来し英語のサンクチュアリsanctuaryと同議語のようである。ドイツの新聞を読んでいてもドイツ語の難民にあたる言葉フリュフトリンゲFluchtlingeと言う語はあまり見かけない。その代わりにAsylが多用されている。この辺りにもドイツ人の気持ちが表れているような気がする。困った人は助けられる権利があるとするのがドイツ人の考え方のようである。

 この集合住宅ができることに対して町民からは全く反対は無かったと言う。住宅ができたときには町民がこぞって使わなくなった家具や鍋や食器を持って行ったそうで、私の友人は余っていたベッドとソファーと自転車2台を持っていたと語っていた。町のホームページを見ると週に1〜2回は難民と町民が一緒に行う行事がでている。コンサート、バレーボール大会、シリア映画の上映会はドイツ語での説明付きなどである。ホームページには難民の為のサイトが用意されるなど親切が溢れている。メルケル首相が「困っている人を救うのは当たり前のこと」と100万人の難民を受け入れた時にドイツ国民は自分たちが受け入れる事で、他のEU諸国もこぞって受け入れるに違いないと思ったそうだが、実際にはそうならず、ドイツ以外に受け入れを行ったのはオーストリアとデンマーク、スエーデンなどだけで他の国は拒否をした。しかし、今でもメルケル首相は「困った人を助ける事はできる。」と言っている。

 トランプ大統領はヨーロッパが難民を受け入れたために、今ヨーロッパは大変なことになっていると何度も言っているが、ドイツではそんなことは微塵も感じることはできなかった。ドイツには全国に1万4千もの町(ゲマインデ)が有るが、そのどこを訪れてもアジ―ルが存在するらしく、町の人と難民が交流をしていると言う。私が見たどの町のホームページにも難民のページが有った。

 ドイツ滞在中に読んだ新聞記事に「IMFの試算によると難民を受け入れた国では2020年の経済成長インデックスが0.5〜1.2%難民の経済活動により増加する予想である」とあった。これは以前からドイツの経済研究所が主張しドイツのメディアが報道していたものと同じである。1960年代、当時の西ドイツは分断されたための労働力不足を補う為に250万人もの外国人労働者(Gastarbeiter)をトルコ、ギリシャ、ユーゴスラビア、イタリア、スペインなどから受け入れることで経済復興を成し遂げた歴史がある。その経験が有る事も難民受け入れに抵抗が少ない一因であるかも知れないが、それよりも中世ヨーロッパの自由都市の市民意識に通じる、市民であることの誇りのようなものを感じる。
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01 Nov 2016   10:04:16 pm
水中CO2センサー
水中に含まれるCO2濃度を計測できるセンサーが開発され、そのプロトタイプによる水中試験が琵琶湖で行われ、それに立ち会う機会に恵まれたので今回はその報告である。
ブログ管理人

 ブログ管理人は数年前から一般社団法人環境未来研究会と言う非営利法人で活動させていただいている。この法人は多士済々であるが、監事の小梨昭一郎さんは海洋調査機器を専門に開発・販売されてきた事業家でこのセンサーを開発され、その第一回目の水中投下実験に我々を招待してくれた。

 10月30日の琵琶湖は晴天で気温17℃と絶好の実験日和であった。水中投入実験は認定特定非営利活動法人びわ湖トラストが所有する実験船「はっけん号」で行われた。本船は36トンの軽合金製の双胴船で2基の525馬力のエンジンで20ノットで巡行できる。船内にはラボと後部に作業甲板とガントリークレーンの設備がある。この船の父とも言える立命館大学琵琶湖Σ研究センター教授の熊谷道夫先生が実験の指揮を執って下さり、我々は邪魔にならないように見学させていただいた。9時13分に朝礼を行い安全第一でとの注意がされ、9時40分に南湖の最深点水深11.8mに到着、水中投入がクレーンで行われ、9時49分回収された。琵琶湖南湖のこの部分の10m以下は完全無酸素状態と言う特殊な部分である。引き揚げられたガラス球の内部に見えるタブレット型PCにブルートゥースで外部からマウスで操作ができる。画面には右肩上がりのpCO2と右肩下がりのDOがはっきり見え実験の大成功が確認でき、船上で大拍手が起こった。

 地球温暖化の最大要因と言われ温室効果ガスであるCO2の大気中濃度は2014年4月には400ppmと言う大台を超えた。産業革命以来現在までに人類は2兆トンのCO2を排出してきたが、そのうち30%は地球の3/4の面積を持つ海洋に吸収されている。空気中のCO2は海面で水中に一旦水素イオンとして取り込まれさらに炭酸イオンに変化して水中に留まっている。
(図参照)その為に海水は酸性化し海に住む生物はカルシウムを作る力が弱くなりその為にサンゴの白化、貝類の減少が起きている。このまま進むと魚や海洋生物の骨の形成にも影響が出ると思われている。その為海中のCO2の量を知る事は重要である。

 これまで海水中のCO2を調べるには、海水サンプルを採取してきてラボに持ち込み試薬による検査や、クロマトグラフィーによる測定を行っていた。その為膨大な手間と時間が必要となるために計測サンプルの量には限りがあった。今回小梨さんの株式会社ソニックが開発したGSOSはガラス球で、その真球体と接続部フランジの精密加工の為に12000メートルの深海まで耐える事ができる。ガラス球の外側に張り付けられた特殊な3種類の感応膜はそれぞれ、水中のpCO2(二酸化炭素分圧)、pH(水素イオン指数)、DO(溶存酸素量)に応じてガラス球内から照射される励起光により蛍光する。この蛍光をセンサーで読み取り位相変化を計算する事でそれぞれの値が算出される。ガラス球体と一緒にフレームに組み付けられた深海用CDT(塩分、水温、深度センサー)のデータを合わせて処理する事でこれまで得る事ができなかった海中の化学変化を記録する事が可能となった。データはガラス球体内のタブレット型PCに保存される。

 このガラス球は下町プロジェクト「江戸っ子1号」の成功に貢献した岡本硝子(株)製で日本の誇るものづくりの結晶とも言えるものである。また、センサー感部はドイツPreSens社とソニックの協力で開発された。

 これまで海面付近のCO2濃度がサンプリングによってごく少数のデータしか取ることができなかったものが、このセンサーが広く世界の観測船、探査船、実験船に搭載されて数多く観測が行われてこのセンサーを投入する事で落下してゆく途中1秒ごとにこれらのデータの取得ができる為に海洋の三次元でのデータ収集が可能となる。特に数千メートルの深海でのデータの採取が可能となるために地球の大海流のCO2変化も解明され、これからの海洋のCO2吸収の傾向の推測が可能となる。科学者たちが恐れている海洋がCO2の吸収から放出へと変化する「ティッピング・ポイント」の予測が可能となるかも知れないと期待ができる。それにより事前に気候変動が予測でき大規模災害から人命を守ることが可能になる日がくることが期待される。。
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02 Oct 2016   10:56:20 am
6年ぶりのメキシコ
6年ぶりのメキシコ

 3泊5日で6年ぶりにメキシコに行ってきた。目的は47年来の無二の親友のメキシコ人を訪ねる為である。今年の私の誕生日に一昨年の誕生日以来なので1年ぶりの電話であったが、いつもと少し違う感じがした。聞くと昨年暮れに大手術をして、今年の7月に再手術をして今は薬物療法が終わるところだと言う。その話を聞いてからやはり居ても立っても居られなくなり行く事にした。

 会って見ると、意外に元気で薬物療法の副作用も無く苦しむことも無かったと言う。氏は富裕層に属する人であるので最高の医療も受けたのであろう。その上奥様の友人の勧めでマグネットを用いた体のエネルギーバランスを取ると言う私などにはマヤカシに思えてしまう民間療法だが、アルタナティブ・メディシンとやらなのだそうで、そのお蔭で薬物療法や手術により悪くなった体のエネルギーバランスが補正されているのだと言う。本人は妻が喜ぶからやって貰っていると笑っていた。氏は究極のポジティブ指向で、その性格が病の治療に大いに役立っているのだと思う。いずれにしても会って顔を見て、話をして安心して、再会を約束して別れた。

 さてブログ「ダンテの森」は地球環境問題を中心に書いているブログなのでこれで終わってはブログ管理人のプライベートライフの紹介となってしまい読者に申し訳ないので、少し感じた事を書く。

 メキシコは中米だと思う人が多いが北米に位置する国で、メキシコ市はその首都で標高2250メートルの高地にあるため赤道に近いのに涼しい。市内には900万人が、メキシコ都市圏では2千万人が居住しており現在も人口は増加の一途である。町中空前の建て替えブームであらゆるところが工事中で、クレーンだらけである。現在メキシコは建築バブルの真っ盛りである。

 そのメキシコで6年間の間に大きく変わったことが一つある。それはポンコツ自動車の一掃である。6年前にはまだ数多くのポンコツ車が走っていたが、今回行って驚いたのは新車の数の多さである。私の友人も昨年買ったと言うベンツの新車に変わっていた。古い車はその年式により一週間に走れる日数が決まっていると言う。それはナンバープレートで分かるようになっており、最も少ないものは週に1日しか走行できないと言う。また、これまでメキシコには無かった車検制度が取り入れられ排ガスの検査を始めブレーキやタイヤの検査もすることになったと言う。これにより、相当CO2の排出量は下がったのでは無いだろうか。

 国としては2004年に4億1530万トンであったCO2排出量を2020年までに1億8000万トンへと削減する野心的な目標を国際社会に宣言している。その為国を挙げて照明のLED化、産業における熱源供給と電力供給を同時に行うことでエネルギー効率を上げるコージェエの導入を進めている。

 メキシコに2005年から導入されたメトロバスはもうすっかり市民の足として定着したようだ。これは道路の中央分離帯の両側にコンクリートの分離帯で区切られた専用レーンを走る2両〜3両連結のバスである。このバスへの乗車は専用プラットフォームからしかできず、このプラットフォームに入る為にはICカードをタッチしなければならない。現在、1号線28km、2号線20km、3号線17kmが運航され1日26万人が利用している。これによるCO2削減量は3万5千トンである。料金は5ペソ(約25円)。

 さらにエコビシと呼ばれる1200台のレンタル自転車システムがあり市内90ヶ所にあるステーションで簡単にレンタルできる。自転車専用レーンも整備されている。月に一度は自転車ウイークエンドが有り自転車専用レーン優先の信号となりこの日は自動車より自転車が優先されるので、多くの家族連れが自転車で繰り出すと言う。時にはサイクリスト達がオールヌードにボディーペンティングで繰り出すイベントもあると言う。

 これらの努力でメキシコ市は交通開発政策研究所(ITDP)から2013年度の「持続可能な交通賞」を受賞している。2011年には北京を抜いて世界ワースト1であったメキシコの変わりようは見上げたものである。
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