5月29日〜31日までの3日間、神戸市のポートアイランドの神戸コンベンションセンターでOceans’18Kobeと題する海洋先端技術を披露し議論する国際会議が開催された。これはOTO’18 / OCEANS’18 MTS / IEEE Kobe / Techno-Ocean2018 と言う4つの学会が共同で開催したもので、初日の29日に参加してきた。ブログ管理人
このイベントの事務局の一つとなっている海洋物理学会の監事をされているタキオニッシュ・ホールディング株式会社の小梨さんのご招待での参加となった。神戸ポートアイランドの国際展示場、神戸コンベンションセンターを訪れるのは久しぶりの事であった。新幹線で小田原から新大阪に、そしてJRで三ノ宮にそこからはポートライナーで10分ほどである。市民広場の駅を降りて会場に向かうと小梨さんと(一社)再生エネルギー支援機構の横田代表が入り口で迎えてくださった。お二人とも私が所属する(一社)環境未来研究会のメンバーである。
IEEEの国際会議の方はさておき、併設の展示会場に入った。入口には選考で学会発表には至らなかったが優秀な研究がポスターセッションを掲示されており、その前で発表者と参加者が熱心にディスカッションをしている。今回の論文発表の選考にも加わられた小梨さんによると、2000以上の論文の応募が有り選考には大変に苦労をしたとのことである。その4割は中国からであると言うので驚いたが、実際ポスターセッションの6割は中国勢で占められていたと思う。他に目立ったのは韓国で、欧州、アメリカと続き日本は残念ながら余り目立たない。
会場内には100社以上が展示をしていた。一番目を引くのは自立型無人潜水機(AUV)である。その次は水中グライダーと呼ばれる翼を持ち深海から海面に浮きあがる時に海流に乗る事で何千キロもエネルギーを使わずに航行しながら計測を行うことができる探査機である。次に多いのはプロファイラーを呼ばれる座標上の一点において海面から深海までの縦方向に一定間隔で計測を行うものである。このプロファイラーをGPSにより一定間隔に水平移動し沈み又浮きすることで細かい網の目のデータが集める事ができ、大洋を3次元データで読み取ろうとするものである。
これらの全ての技術が向いている方向は資源探査である。それはメタンハイドレートのような新たなエネルギー源となる化石燃料であり、レアメタルであり、ひいては新しい食料としての深海生物の探査である。地上から採掘が可能な化石燃料の開発に飽き足らず、地球の2/3を覆う海洋から次世代のエネルギー源やレアアースや食料を得ようとの熱気が感じられた。いずれの国でも新しい資源の開発には研究予算が付きやすいと言うのも資源探査をテーマにする大きな動機ではあろうと思われる。
私は、いくつかのブースでこの探査機は海水中のCO2濃度は測れますかとか、マイクロプラスチックの分布は計測できますかと、聞いて見た。それに対しては殆どの場合予想をしていなかったようで戸惑いを取って見る事ができた。彼らにとって海洋は未知の資源の宝庫であり、CO2の吸収(廃棄)が行われている場所でも、プラスチックゴミの廃棄場所であり、我々が出す排熱の廃棄場所(水の熱量の吸収は大気の数千倍である)であると言う認識は持っていないように思えた。
その点私を今回、招待して下さった小梨さんが所属するタキオニッシュ・ホールディングは異なっており異色の存在であった。今回、発表した「江戸っ子2号」と言うプロファイラーは、海水のCO2濃度、ph値、酸素量を瞬時に計測し一旦数千メートルの深海まで到達した毎秒一回の計測しながら浮かび上がり計測値を一旦PC内に取り込み浮上した後はGPSデータと共に衛星通信でデータを送る。これによりCO2の分布図を作る事ができる。すでに2000mでの実証実験も終わり、今後は更に深海でのテストを重ねて行くことになっている。これまで人類は産業革命以来2兆トンのCO2を排出しその30%は海洋に吸収されたことが分かって居る。現在も海洋はCO2を吸収し続けているが、科学者はそれがいつの日か吸収から放出に切り替わる「ティッピングポイント」を迎えることを恐れている。それを我々に示してくれる、このプロファイラーが持つ使命は重大である。(弊プログ2016年11月1日参照)
我々人類は本当に必要としているエネルギーや資源の5倍も浪費をしているのが現代の産業であり経済構造である。エネルギーも資源も現在の1/5の消費で現状の生活や食料生産、産業を動かすことは可能である。それには何も新たな技術の開発は必要なく、既存技術をシステマティックに組み合わせることで可能である。それは筆者の環境の師であるローマクラブ共同会長のヴァイツゼッカー博士の著書「ファクター5」に詳しい。
いま海洋を調査するのであれば新たなエネルギー源や資源の探査を目的にするのでは無く、いかに海洋が人類の活動によりいかに傷つけられているのか、いかに海洋を現状より悪くしないで済むのか、を目標とするべきでは無いだろうか。それは、研究や調査に携わる一人ひとりが意識として持つべきことであろう。それが、科学者、技術者の良心と言うものではないだろうか。 |