トランプ大統領が地球温暖化対策を見直す大統領に署名
ブログ管理人
去る3月28日ドナルド・トランプ米大統領は、オバマ前政権が推進した地球温暖化対策を目的とした規制の見直しをして米国内の化石燃料産業の振興を目指す大統領令に署名した。
この日初めて訪れたEPAで、ウエストバージニア州の炭鉱労働者の代表とスコット・プルイット環境保護局(EPA)長官が見守るなか大統領令に署名したトランプ氏は「わが政権は石炭産業に対する戦争を終わらせる。政府の介入をやめ、雇用を失わせる規制を撤廃するため、米国のエネルギーに対する制限を撤廃すると言う歴史的な一歩を踏み出した。」と述べた。
昨年11月の大統領選でウエストバージニア州はヒラリー・クリントンの3倍以上の大差でトランプ氏を選んだ。その理由は政府の政策転換により同州の石炭産業を復活させると言う選挙キャンペーンが功を奏したからである。同州の炭鉱労働者達はこぞってトランプの選挙戦を応援した。
しかし、同州の石炭産業の衰退はオバマ政権がはじまるずーっと以前から始まっていた。第二次大戦以前に活況を呈した炭鉱は大戦の終了と共に徐々に低迷を始めた。全米的には石炭の生産がまだ増加を続けていた1980年代にあっても同州の石炭生産量は減少を続けている。その主たる理由は採炭の方法の転換にある。ウエストバージニア州の炭鉱は地下炭鉱で地下深く鉱道を掘り進めて行く方法で採炭コストが高い。この頃ワイオミング州で始まった山の山頂から爆破して山を取り除き炭鉱を露出させて重機を使って大量に採炭する露天掘りが始まった為である。
現在のウエストバージニア州の最大の産業はと言うと医療サービスであり州内の勤労者6人に1人は医療サービスに従事している。同州の平均年齢は高く人口の22%が健康保険サービスを受給しており全米平均の16.7%に較べても高水準である。非保険加入者率は2013年には14%であったが2015年には6%に減少しており大きくオバマケアの恩恵に浴しており、トランプ大統領が先に廃止しようとして自党である共和党からの賛同も得られず採決さえ行われなかったオバマケアの撤廃法案が若し通過していたとすれば同州の老人たちは最も大きな犠牲を強いられるところであった。
今回のトランプの反地球温暖化対策の大統領令がいくばくかの炭鉱労働者を炭鉱に送り戻す事ができたとしても、同州の石炭は米国内での市場競争力が無い事から同州の石炭産業の復興にはつながらない。炭鉱の州と言うノスタルジーに訴えた選挙戦術に乗せられた選挙民たちは、これらの現実の数字には目を向ける事が無かった。トランプの選挙キャンペーンは全てセンチメンタリズムとノスタルジーに訴えるものが多く数値や科学的データは忌み嫌う傾向にある。居酒屋での政治論議は得てしてそんなものであるからだ。全米炭鉱労働者の数は75,000人に対し再生可能エネルギー従事者は600,000人であるが、トランプ氏にかかるとそんな数字は「嘘っぱちだ」と一蹴される。
全米の火力発電所の中で旧式の石炭火力発電所は2015年までに約40GWが閉鎖されさらに40GWが閉鎖する予定になっている。新設予定であった20GWの石炭火力はキャンセルされ天然ガス火力発電に転換する事が決まっている。これは何も地球温暖化対策だけでなく発電所としての採算性の問題である。米国のAnnual Energy Outlook 2015によると石炭火力の発電コストは1MWh(メガワット時)あたり95〜150ドルである。
一方再生可能エネルギーの価格は低下の一方である。陸上風力発電は1MWhあたり50〜70ドルである。最新の太陽光発電プロジェクトでの発電コストは1MWhあたり30ドル(2016年メキシコ)を割るところまで来ており、太陽光発電は今や最も安い電力供給源となった。発電所は営利事業であるので発電コストは安ければ安いほど良いに決まっており、これから新規の発電所を石炭火力にすると言う選択は今や考えられない。ちなみに原発は311の福島事故以来安全対策コストの急激な増加の為に建設コストと保守コストが高騰しており、最新のプロジェクトである英国ヒンクリー原発が2023年に稼働を開始する時には155ドル以上になると見積もられている。このように電力業界において再生可能エネルギーが最も安価なエネルギー源になるのは時間の問題で、世界はいやおうなくそちらの方向に進んでいる。
ウエストバージニア州の選挙民は間もなくこの事実に気付き、前回の大統領選でセンチメントとノスタルジーに浮かされて間違った選択をしてしまった事を後悔することになるだろう。 |