水中に含まれるCO2濃度を計測できるセンサーが開発され、そのプロトタイプによる水中試験が琵琶湖で行われ、それに立ち会う機会に恵まれたので今回はその報告である。
ブログ管理人
ブログ管理人は数年前から一般社団法人環境未来研究会と言う非営利法人で活動させていただいている。この法人は多士済々であるが、監事の小梨昭一郎さんは海洋調査機器を専門に開発・販売されてきた事業家でこのセンサーを開発され、その第一回目の水中投下実験に我々を招待してくれた。
10月30日の琵琶湖は晴天で気温17℃と絶好の実験日和であった。水中投入実験は認定特定非営利活動法人びわ湖トラストが所有する実験船「はっけん号」で行われた。本船は36トンの軽合金製の双胴船で2基の525馬力のエンジンで20ノットで巡行できる。船内にはラボと後部に作業甲板とガントリークレーンの設備がある。この船の父とも言える立命館大学琵琶湖Σ研究センター教授の熊谷道夫先生が実験の指揮を執って下さり、我々は邪魔にならないように見学させていただいた。9時13分に朝礼を行い安全第一でとの注意がされ、9時40分に南湖の最深点水深11.8mに到着、水中投入がクレーンで行われ、9時49分回収された。琵琶湖南湖のこの部分の10m以下は完全無酸素状態と言う特殊な部分である。引き揚げられたガラス球の内部に見えるタブレット型PCにブルートゥースで外部からマウスで操作ができる。画面には右肩上がりのpCO2と右肩下がりのDOがはっきり見え実験の大成功が確認でき、船上で大拍手が起こった。
地球温暖化の最大要因と言われ温室効果ガスであるCO2の大気中濃度は2014年4月には400ppmと言う大台を超えた。産業革命以来現在までに人類は2兆トンのCO2を排出してきたが、そのうち30%は地球の3/4の面積を持つ海洋に吸収されている。空気中のCO2は海面で水中に一旦水素イオンとして取り込まれさらに炭酸イオンに変化して水中に留まっている。(図参照)その為に海水は酸性化し海に住む生物はカルシウムを作る力が弱くなりその為にサンゴの白化、貝類の減少が起きている。このまま進むと魚や海洋生物の骨の形成にも影響が出ると思われている。その為海中のCO2の量を知る事は重要である。
これまで海水中のCO2を調べるには、海水サンプルを採取してきてラボに持ち込み試薬による検査や、クロマトグラフィーによる測定を行っていた。その為膨大な手間と時間が必要となるために計測サンプルの量には限りがあった。今回小梨さんの株式会社ソニックが開発したGSOSはガラス球で、その真球体と接続部フランジの精密加工の為に12000メートルの深海まで耐える事ができる。ガラス球の外側に張り付けられた特殊な3種類の感応膜はそれぞれ、水中のpCO2(二酸化炭素分圧)、pH(水素イオン指数)、DO(溶存酸素量)に応じてガラス球内から照射される励起光により蛍光する。この蛍光をセンサーで読み取り位相変化を計算する事でそれぞれの値が算出される。ガラス球体と一緒にフレームに組み付けられた深海用CDT(塩分、水温、深度センサー)のデータを合わせて処理する事でこれまで得る事ができなかった海中の化学変化を記録する事が可能となった。データはガラス球体内のタブレット型PCに保存される。
このガラス球は下町プロジェクト「江戸っ子1号」の成功に貢献した岡本硝子(株)製で日本の誇るものづくりの結晶とも言えるものである。また、センサー感部はドイツPreSens社とソニックの協力で開発された。
これまで海面付近のCO2濃度がサンプリングによってごく少数のデータしか取ることができなかったものが、このセンサーが広く世界の観測船、探査船、実験船に搭載されて数多く観測が行われてこのセンサーを投入する事で落下してゆく途中1秒ごとにこれらのデータの取得ができる為に海洋の三次元でのデータ収集が可能となる。特に数千メートルの深海でのデータの採取が可能となるために地球の大海流のCO2変化も解明され、これからの海洋のCO2吸収の傾向の推測が可能となる。科学者たちが恐れている海洋がCO2の吸収から放出へと変化する「ティッピング・ポイント」の予測が可能となるかも知れないと期待ができる。それにより事前に気候変動が予測でき大規模災害から人命を守ることが可能になる日がくることが期待される。。 |