ダンテの森    
17 Sep 2016 12:12:53 am
分散型ソリューション
分散型ソリューション

世界の貧困は1990年に20億(37%)から2012年には10億人(13%)に減少したと言うが、現在も電気の恩恵に浴していない人は世界には14億人いる。どうやってそれを克服してゆくか、その解答のひとつが分散型ソリューションである。

ブログ管理人

 当ブログの愛読者にはもうおなじみの話題で、インドのロイ・ブンカー氏が1968年に開設したベアフットカレッジである。先日、自然エネルギー財団が主催したシンポジウムには財団創立者の孫正義さんをはじめとして、中国、韓国、ロシアの電力会社の最高経営者が集まり、ゴビ砂漠に巨大な太陽光発電所を作り、それを中国―ロシア―日本、中国―韓国―日本の2系統をループにして高圧直流超電導送電技術でつなぐと言うビッグプロジェクトの話題に沸いていたが、このベアフットカレッジの考え方はその対極にある。

 産業界の人たちはどうしてもビッグプロジェクトを好む。一番喜ぶのは建設業界で、何兆円と言う金額のプロジェクトには目の色を変える。次に三菱、日立、東芝などの重電メーカーで超電導、超高圧など“超”が付くものには目が無い。国もそういうものには補助金を出したがる。しかし、巨大な太陽光発電所を作ってそれを電力網でつなぎ、そのどこかにエネルギーを貯める為の揚水発電所や巨大蓄電池を建設すると言う発想はこれまでのものから一歩も出ていないと思う。そして孫さん達が目指すのは、石油や地下資源に依存しない(これは地球環境にとって良い事であることには違いないが)安全な、電力を多量に安く提供することにあると言う。多量に安く提供すると言うところが、従来の成長経済思想から一歩も出ていない。孫さんのやってきた通信ビジネスでは、これまで全く無かった付加価値を提供し、初めは高価で一部の人のものであった持ち運びのできる電話を、安く提供する事で世界中の子供たちにまで普及させた。これはある意味で産業革命以来の成長経済の終着点にあたるビジネスであったと思う。この携帯電話を最後に成長経済の時代は終わり、ハーマン・デイリーの提唱する定常経済へ移行してきていることに産業界の人は気づいてもらいたいと思う。

 ベアフットカレッジは、巨大な資本が必要な社会インフラとは対照的な分散型ソリューションである。電気も水も来ていない貧困国の貧困な村落に必要なのは電力会社からの送電線ではない。最低限必要な夜の照明と水の汲み上げの為の僅かな電力である。これには長い送電線など無用で、畳程度の太陽光パネルと自動車用バッテリーあるいはバッテリー付蛍光ランプかLEDランプのランタンが有ればよい。一つの村にまずは1セットあれば、子供たちは夜に勉強する事ができるようになる。なぜ夜かと言うと昼間は、羊やヤギなどの家畜の世話が子供たちの主な仕事であるからである。ベアフットカレッジはこのような太陽光利用の分散型ソリューションを貧困な村落に普及してきた。

 ベアフットカレッジは当ブログでは2012年1月12日に取り上げて以来、ことあるごとに取り上げている。それは、ベアフットカレッジの考え方が貧困をなくす最良の手段の一つであると思えることと、インフラに頼ることなく世界中の小さな村が自立できることを現代技術は既に提供できるようになったことで、そこに「ファクター5」の著者ヴァイツゼッカーも注目しこの本の中でとりあげている。

 ベアフットカレッジで教えるのは太陽光を使った、照明、調理器、井戸水の汲み上げなどである。ソーラーパネルの組み立て、据え付け、充電器と重電制御装置も作る。トランスを手で巻いて作り、ICチップや抵抗器などをプリント板にはんだ付けすることから教える。太陽光調理器は直径2メートル程のパラボラ反射板で太陽光を集めて高熱を作る。パラボラの骨組みの溶接から鏡板の取り付けまで全てを勉強する。対象となる学生は最貧村落で選ばれた祖母たちである。貧困な村落の女性は早婚が多く、30代後半には祖母になる。祖母は、家庭の中では少し責任が少なくなっておりベアフットカレッジでの半年間の勉強をする時間を作ることができる。ほとんどの学生は字は読めなく英語も話せないので教室ではサインランゲージと画像で学習が行われる。アフリカ、アラブ、中南米、アジアの最貧国から集まったおばあちゃん達は、生まれて初めて自分の村を出てインドに渡り、知らない国の人たちと一緒に半年間勉強して行くうちに、大きく変わって行く。まず太陽光発電装置、充電装置、充電式ランタンや太陽光調理器などを作れる技術を習得する。そして、自分が村に帰ってこの技術を村に生かせることで、自分の孫たちが夜勉強できるようになり、木くずを燃やすことなく調理ができ、井戸水を汲み上げるポンプを太陽光電力で汲み上げることができることを知る。

 そして半年後太陽光技術者となったおばあちゃん達は自信たっぷりで村に帰って行く。これまで国際援助団体は同様の機材を届ける事をしてきたが、設置後数年で使われなくなるのが普通であった。僅かな故障でもサービスマンを呼ぶことができなければどんな素晴らしい機器も動かなくなってしまう。しかし、おばあちゃんエンジニアはそれを自力で修理することができる。それではなぜおばあちゃんでなければならないのか、理由は男は技術を得るともっと金を稼ぐことができる町に出て行ってしまうからである。おばあちゃんは違う、村で孫たちの為に頑張るのである。

 次のURLでロイ・ブンカー氏がTEDで行ったプレゼンテーション(英語)を見ることができます。

https://www.youtube.com/watch?v=6qqqVwM6bMM

 ベアフットカレッジのURL(英語): https://www.barefootcollege.org/
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