信念と希望、そしてエネルギー革命 (オリジナルは英文)
自然エネルギー財団のホームページからの転載
2016年3月28日
スティーブ・ソーヤー 世界風力エネルギー会議(GWEC)事務局長
(2016年2月10日付ハフィントンポストGreen Energyから)
この30年間、地球温暖化防止のために自然エネルギー革命をめざす闘いを続けてきた。それが人類の究極の利益につながるという信念と、自分たち自身を解放する手段になるという望みに突き動かされてきたのだ。2004年の秋にロシア下院が京都議定書批准法案を可決し、京都議定書が発効したときには、希望の光が差したと感じ、仲間とウォッカで何杯も祝杯をあげた。そのときは、結局期待どおりにはならなかったが、しかし、今回のパリ協定の締結を迎え、自然エネルギー産業による最新の統計でもいい数字が出てきている。もう技術は準備万端のようだ。今、問われているのは私たちの意志なのだ。
化石燃料価格が急落したにもかかわらず、2015年の自然エネルギーへの投資は史上最高の3,290億ドルに達した。米国、中国(3年連続)、EU (9年連続)の各国で、自然エネルギーの新規導入量は、従来型エネルギー源の導入量を上回った。なかでも新規導入が最も多かったのは風力だ。
2015年、世界の風力発電の新規導入量は、中国の30,500 MW(3,050万kW)という驚異的な導入量に後押しされて、総計63,013 MW(6,301.3万kW)となった。市場は年間で22%成長したことになる。米国市場は第4四半期の力強い急成長を背景に8.6 GW(8.6百万kW)に達した。ドイツ、欧州市場の予想を上回る成長を牽引した。ドイツでは、2.3 GW(2.3百万kW)の洋上風力発電を含む6 GW(6百万kW)が導入され、史上最高となった。
2015年末時点の世界の風力発電の累積導入量は、432,412 MW(4億3,241.2万kW)に達し、成長率17%となった。
2015年の並外れた市場の成長で、中国の総導入量は145.1 GW(1億4,510万kW)となり、EUの141.6 GW(1億4,160万kW)をわずかに上回った。中国政府は、クリーンエネルギー推進のために政策の改善を重ねているが、その背景には、主要都市が殺人的なスモッグで苦しみ、石炭への依存を軽減する必要性と気候変動への懸念が高まったことがある。アジアでは、インドも2,623 MW(262.3万kW)という素晴らしい新規導入量を記録し、累積導入量ベースでスペインを抜いて4位となった。
風力は価格、効率および信頼性の競争で圧倒的な勝利を収め、化石燃料からのエネルギー転換で中心的な役割を果たしている。風力はほとんどの主要電力市場で既に優位を占めているが、アフリカ、アジア、中南米の全域でも新たな市場が次々とできつつある。これらの地域が、今後10年間、市場を牽引する新たなリーダーになるだろう。風力タービンの形状を調整することで、風力発電が競争力を持てる地域が劇的に拡大したのだ。
2015年の投資額の増加が比較的穏やかだったのには、風力・太陽光発電コストの急激な低下が、実はその一因にある。太陽光の価格の劇的な低下は周知のとおりだが、風力発電のコストも大幅に低下している。例えば米国では、この6年間で三分の二も低下している。現在、オーストラリア、ブラジル、南アフリカ、トルコ、米国の大半、中国の一部およびアフリカのほぼ全域など多くの市場で、風力は新規導入ベースで最もコストの低い発電方法となっている。モロッコの850 MW(85万kW)のプロジェクトをめぐる最近の取引では、平均価格が0.03ドル/kWh(0.028ユーロ/kWh)となり、モロッコ政府高官は「石炭の価格をゼロと仮定しても、新設の石炭火力発電所より風力の方がコストが安い」と指摘している。
昨年、発展途上国や新興国の風力導入量はOECD諸国を60%近く上回り、2010年以降顕著になっているトレンドをさらに継続させ、加速させることになった。この牽引役が、中国、インド、ブラジルであることは言うまでもないが、それ以外にも、たとえばウルグアイのような国も一役買っている。ウルグアイでは風力発電がすでに25%以上に達しており、今後2、3年のうちに自然エネルギー100%という目標を達成できる可能性が高い。
太陽光発電も急激に伸びている。最終的な数字はこれから出るが、導入量は世界全体で初めて50 GW(50百万kW)を超える可能性が高い。世界中の主だったシナリオは、今後、電力部門の新規導入量では風力と太陽光が優位を占めるだろうと一致している。風力と太陽光は、二酸化炭素を排出しないだけでなく、運転時に水を消費せず、エネルギー安全保障と経済の安定に貢献し、新たな産業と数百万の雇用を生み、発展途上国の巨大都市で数百万という命を奪っている息が詰まるスモッグを減らすからである。
こうして電力部門における「炭素戦争」に勝利を収めつつある今、エネルギー効率にさらに注目する必要がある。「消費されない」エネルギーが最も低コストだからだ。また、熱や運輸部門にもさらに注目するべきだ。将来、電力が風力と太陽光で賄われるようになれば、熱供給や輸送も、電力への依存をますます高めると予想されるからだ。
エネルギー革命、万歳!
原文URL: http://jref.or.jp/column/column_20160328.php |