難民がテロを生むのでは無く、テロや戦争が難民を生んでいる。
ブログ管理人
英国のデイビッド・キャメロン首相が英国議会で、シリア空爆に参加を議会審議するように求めた。1週間前に起きたパリのテロを受けてオランド大統領が非常事態宣言を出し、シリア空爆を強化したことや、ロシアの空爆の激化を見てシリアにおける紛争に終わりが近づいた事を見て取り、中東における英国のプレゼンスと利権を取り戻す為には空爆に参加しておく必要が有るとの判断だろう。
キャメロン首相の提案理由によると、1番目にテロの脅威を取り除く唯一の手段が空爆であるとしている。これはどう考えてもおかしい。今回のパリでのテロの犯人は、全てフランスやベルギー生まれのアラブ系の若者である。彼らのほとんどは普通の若者であったと、若者たちを知る人たちは口ぐちに語っている。もちろん彼等を勧誘し手筈を整えたISのリクルーターは存在したとは思うし、ISの援助なしに自爆ベストや自爆ベルト、またカラシニコフや大量の銃弾や手投げ弾の用意はできなかったであろう。しかし、実行犯はごく普通のアラブ系のフランス人やベルギー人の若者であったことはまちがいないと思う。
オランド大統領はパリでのテロを国内問題では無く、即座にISの犯行に結び付け、「これは戦争だ!」と叫んだ。911の時にジョージ・W・ブッシュが「これは戦争だ!」と叫んだ事を思いだす。ブッシュはアルカイダの犯行としその背後にはイラクが居ると決めつけて直ちにイラク攻撃に出たが、今回のオランド大統領の行動は、その図式に余りにも似ている。
現在欧州には1500万人のアラブ系の人たちが住んでいる。その殆どは貧困層に属している。社会保障が比較的整っている欧州でも、新自由主義化の傾向が強くなるにつれ富を持つものはより豊かになり、持たざる者は貧しさを増す経済格差が大きくなってきている。その中で社会層の底辺に多いアラブ系の人たちが格差を感じる事は増してきていると思う。それに加えて欧州各国の地元民の貧困層を背景にした右翼の台頭である。彼らはムスリムを敵視し、各地でモスクの襲撃や、反イスラムデモを繰り広げたりしている。その為に反動的になるアラブ系の若者が出てくることも容易に理解できる。
その内フランスには約500万人のムスリムが居る。彼らは第二次大戦後フランスの経済発展が目覚ましかった頃に、単純労働者として中東から移住してきた「出稼ぎ労働者」の2世や3世である。フランスでは出生するとフランス人となり2重国籍は許されていないので、彼らの祖国はフランスとなる。ムスリムの家庭で育ち、ムスリムである彼らはキリスト教徒が多いフランスの中では少数派として差別を受ける。タカ派のサルコジ政権時代には、女性にスカーフの着用を禁じたりしてそれが顕著になった。
空爆は最も愚かな方法である。空爆はいわば無差別攻撃だからだ。高射砲が届かない数千メートルもの上空から攻撃目標を500kgも1トンもある爆弾を投下するのであるから、目標とする敵が居ると思われる建物であり目標物の周辺に居住する子どもや女性を含む非戦闘員が大勢死ぬ。敵とする目標の戦闘員がどれだけ損害を受けたのかは判明の由もない。しかし、必ずと言ってよいほど非戦闘員の女性や老人、それにいたいけな子供たちが死んだり重傷を負ったりしている。欧米の空爆やドローンによる攻撃は、それにより家族を失くした若者を過激派にする原因を作っているだけである。そもそも航空機による無差別爆撃は禁じられるべきであると私は考えるものである。その最たるものが広島・長崎であったが、これを戦争犯罪と断じなかった事が、いつの間にか空爆は通常の戦術の一つのように語られるようになってしまっている。これは米国での、銃所有を基本的な権利と考える、アメリカ人特有の権利意識の延長線上にあるものではないだろうか。米国内であれだけ銃の乱射事件が続いても、いまだに米国社会はかたくなに銃の保有を個人の権利と考えている。
いつイスラム過激派が攻めてくるか、いつ空から爆弾が降ってくるか分らない、そんな所には住む事はできないと、住みなれた故郷を捨てて決死の覚悟で危険なボートに乗り、何日も野宿をしながら徒歩で国外を目指す難民の様子を私たちはメディアを通じて目にしており、心を痛めている人も多いはずである。ドイツのメルケル首相は「困っている人を助けると言う事が間違っていると言うのであれば、それはもう私のドイツではない」と言ってシリアからの難民を受け入れようとしているが、それとて出身党のCDU/CSUから反対意見が出され風前の灯である。しかしここで私たちが知るべきは、難民がテロを生むのでは無く、テロや戦争が難民を生んでいるのだと言う事実である。 |