多くの市民の同意を得ているドイツの自然エネルギー賦課金額
2015年11月2日 自然エネルギー財団研究員 一柳絵美さん
自然エネルギー財団ホームページより
ドイツの送電事業者4社は10月15日、自然エネルギー促進のための来年の賦課金額を6.354ユーロセント(約8.6円)/kWhと発表した。2015年の賦課金額は6.170ユーロセントで前年より微減していたが、2016年の賦課金額は再び微増した ⅰ 。賦課金の影響による電気料金上昇にドイツの消費者は反対しているという報道があるが、当の消費者は、賦課金額をどう捉えているのだろうか。
賦課金額の安定化と今年の家庭用電気料金微減
今回の賦課金額発表をうけて、ドイツのエネルギー転換政策で中心的役割を果たすガブリエル連邦経済エネルギー相は、「過去数年間を振り返って分かるのは、私たちが賦課金額の安定化に加え、平均的な家庭用電気料金の微減にも成功したということだ」と述べた。実際、2014年以降の賦課金額は、急激に増減することなく1kWhあたり6ユーロセント前半で推移しており、安定している。この9月に、ドイツエネルギー水道事業連盟(BDEW)は、2015年のドイツの平均的な家庭用電気料金が、前年比で1.4%減少したことを発表している。家庭用電気料金が減少するのは、固定買取価格制度を定める『再生可能エネルギー法』(EEG)が施行された2000年以来初めてのことである。今年のドイツの月額電気料金は、年間3500kWhを消費する平均的な一般家庭では83.76ユーロ(約11,300円)。そのうちの賦課金負担分は21.5%で、月額約18ユーロ(約2,400円)となっている。
賦課金額を妥当とする市民の割合は増加傾向
ドイツの自然エネルギーについての情報発信を専門とする団体、ドイツ再生可能エネルギー・エージェンシー(AEE)は、2011年以降毎年、賦課金額に対する市民の受容性に関する世論調査を発表している。2015年9月の発表によれば、2015年の賦課金額を“妥当”と答えた人の割合は57%で、“高すぎる”と答えた31%を大きく上回った。また、“低すぎる”と回答した人も6%で、前年の調査より微増した。過去5年分の世論調査結果を分析してみると、実際の賦課金額が上昇傾向にある中でも、2012年以降、賦課金額を“妥当”とする人の割合は年々増加しながら、“高すぎる”とする人が減少していることが分かる。今年、“高すぎる”と答えた人の割合は、2012年から20%も減少した。
ただし、例外的に、2011年から2012年の調査にかけて、賦課金額を“高すぎる”とした人の割合が急増している。それを疑問に思い、AEEに直接問い合わせてみると、2012年に急激に加速したロビー団体などによる賦課金額上昇に対する強烈なネガティブキャンペーンが影響していることが分かった。中でも有名なのは、ドイツで毎年10月に行われる翌年の賦課金額発表にさきがけて、2012年の夏から行われたキャンペーンだ。これは、マスコミ、広告、イベントなどを駆使する大規模なものだった。ドイツ産業界を母体とするNGOが中心となり、大手電力会社と繋がりを持つ経済研究所が協力して展開したといわれている。
このような賦課金額上昇の議論の渦中で実施された2012年の世論調査では、質問文に「来年の賦課金は5ユーロセント程度に上がる見込みです」という文言が付け加えられている。そして、ネガティブキャンペーンの影響もあって、賦課金を“高すぎる”という回答をした市民の割合が増えたと考えられる。しかしその後、賦課金額に同意を示す市民の割合は再び回復しており、今年の調査では賦課金を妥当・低すぎると答えた人の合計が6割を超えた。
今後の賦課金額は2023年頃をピークに下がる見込み
ドイツの大手環境シンクタンク、エコ研究所の予測によれば、賦課金額は今後、主に洋上風力発電拡大のため1~2ユーロセント/kWh程度は上昇するが、2023年頃にピークを迎えた後は減少に転じ、2035年までに2~4ユーロセント/kWh程度下がる。そして、2035年には総電力消費量にしめる自然エネルギーの割合が、現状のほぼ倍の60%程度まで拡大していくという。このように、自然エネルギーの拡大を継続させながらも、賦課金が長期的には下がると予測できるのは、固定価格買い取り制度の初期段階に、まだ割高だった発電設備に対する買い取り義務期間が、2023年頃から徐々に終焉を迎えるのに加え、新規設備による自然エネルギーの発電コストが低下しているためである。
原文URL: http://jref.or.jp/column_g/column_20151102.php |