欧米ではリサイクルが当たり前、日本では燃やすのが当たり前
最近、廃油のリサイクルに取り組んでおられる方にお会いする機会があった。
氏は、大手の石油会社の中央研究所で重責を務められた後、現在はある石油関係の会社の重役をされている。1970年代、彼が大手の石油会社の研究所に在籍していたころ、潤滑油の再生の研究に取り組んでいた。自動車には数リッターの潤滑油が使われており、これは一定距離を走ると交換される。工場にある機械にも数々の潤滑油が使われており、やはり古くなると交換される。回収された廃油は、そのまま廃油引き取り業者によって集められ、工場ボイラーや風呂屋で燃やされている。
潤滑油と言うのは石油製品を原材料に機械の摩耗を防ぐための数々の添加剤、粘度や温度特性を良くするための添加剤などで合成され製造時に多大なエネルギーが投入された化学物質である。性能が劣化したからと言って燃やしてしまうのは最も芸が無い。それが日本では唯一のリサイクルであったが、欧州ではすでにその当時本物のリサイクルが行われていた。本物のリサイクルと言うのは、使い古され不純物を含み性能が劣化した潤滑油から不純物を取り除き、性能劣化の原因物質を取り除き、新品の潤滑油に近い状態にして再度潤滑油として使うことである。
氏は当時の通産省(現経産省)に潤滑油再生プロジェクトを提案した。1980年に入ると廃油を燃やすとダイオキシンが発生する事が問題となり、潤滑油を再生できれば焼却炉やボイラーで燃やす事が無くなると言う理由からプロジェクトは進められた。しかし、石油業界は潤滑油添加物にダイオキシン発生の原因物質を使わない研究をすすめた結果潤滑油を燃やしてもダイオキシンは発生しなくなった。すると、石油業界は売り上げの増加を重要視して潤滑油のリサイクルの研究は止めるようにと、通産省に圧力をかけこの研究は有名無実にされてしまったとのことである。
その間、欧州はもとより米国でも潤滑油のリサイクルの開発は進み、現在では欧米ではほぼ100%の潤滑油はリサイクルされて再生潤滑油として流通している。資源の少ない日本で、石油製品である潤滑油をリサイクルする道を選ばなかった日本の石油業界と通産省の売り上げ重視の考え方は納得しがたいものがある。因みに日本で新車を購入すると5000kmごとのオイル交換が進められる。ドイツ車の場合は基本的にメンテナンス時に補充をするだけで、油の粘度が無くなると交換を勧められるが、筆者が乗っていたドイツ車の場合、新車からのはじめてのオイル交換は3万kmを走った後であった。その後もだいたい3万kmごとにオイル交換をした。どうもこれは、日本の石油業界の力が働いているように思える。
現在はどうかと言うと、全国オイルリサイクル協同組合のホームページを見ると、回収された古オイルは殆どは重油の代替えとしてボイラー用燃料となっており、リユースされるのは僅かであると書かれている。(図参照)欧米では必ず行われている真空蒸留の工程が無く、そもそもリユースを主体には考えられていないことがこの図からも分かる。燃料として燃やすのは最終手段で有るべきである。
全国オイルリサイクル協同組合のURL: http://www.oilrecycle.or.jp/work/
話は戻って、氏は現在の新しい会社で、変圧器用絶縁油のリサイクルをビジネスモデル化しようと考えている。変圧器には必ず冷却用の絶縁油が入っている。欧州ではリサイクルが普通だと言うが、やはり日本では劣化すると回収されて燃やされている。氏はそれを可搬式のリサイクルプラントを作って、変電所や発電所に運んでゆきその現場でリサイクルを行うサービスとしてのビジネスモデルを構想している。これとて、絶縁油を販売する会社にとっては売り上げが下がる嬉しくない技術である。
このように、海外ではすでに普通の様に行われているリサイクルそしてリユースが、日本では行われていなく、それが役所の指導のもとで政策的に行われていることが問題である。経産省は資源保護よりGDPの方が重要と見える。氏のような、限られた資源は大切に使うべきとの考えの研究者の研究が実る事を祈ってやまない。 |