当ブログ「ダンテの森」は2011年8月15日に書き始められ、読者の皆様に叱咤激励されながら今日で丸四年を迎えることができました。皆様の応援に心より感謝いたします。今回で通算1077回目となります。
今日の70回目の終戦記念日にむけ昨日、安倍首相は記念談話を発表した。その談話を読んだ感想を述べさせていただきます。
安倍談話はまず、冒頭から日露戦争は、植民地支配であったアジアやアフリカを勇気づけたとポジティブに評価しており、これにより戦争は必ずしも悪い面だけでは無いと言う印象を与えようとすることからこの談話は始っています。
この後この安倍談話には被害者の数が何ヶ所か出てきますがそれは、戦争被害の大きさ表わす尺度としているつもりのようであるようです。つぎに、第一次世界大戦(1914〜1918年)では一千万人の戦死者があり、その後遺症とも言える世界恐慌の為に経済のブロック化が起き日本が戦争への道を進んだのは止むを得ない部分が有ったとの印象を与えようとした表現に思えます。
ここで、明治以降の日本の植民地政策の歴史をひも解いてみたいと思います。1895年に日清戦争に勝利した日本は台湾を領土としました。明治政府の植民地政策のはじまりです。1910年には朝鮮併合を行い、1912年に清朝が滅亡した後ロシアが制していた中国東北部を、日露戦争の勝利により植民地化を始めました。1931年に満州事変が画策されて関東軍が制圧し1937年に満州国が日本軍部により作られました。1941年には英米の植民地政策からアジアを解放し日本・満州国・東南アジアを一つの経済共同体とする大東亜共栄圏が構想されそれに向かって日本は軍事大国として驀進をはじめます。その結果国際社会から孤立化し、まさに窮鼠猫を噛むの例えのように真珠湾攻撃から太平洋戦争・第二次世界大戦へとひたすすんだのですが、安倍首相の談話ではこの部分は全く抜け落ち一気に70年前の敗戦に飛んでいることを注目したいと思います。
ここに来てはじめて安倍首相は外国の戦死者に言及し「戦後七十年にあたり、国内外に斃れたすべての人々の命の前に、深く頭を垂れ、痛惜の念を表すとともに、永劫の、哀悼の誠を捧げます。」と述べています。一方日本人戦死者に対しては「三百万余の同胞の命が失われました。祖国の行く末を案じ、家族の幸せを願いながら、戦陣に散った方々。終戦後、酷寒の、あるいは灼熱の、遠い異郷の地にあって、飢えや病に苦しみ、亡くなられた方々。広島や長崎での原爆投下、東京をはじめ各都市での爆撃、沖縄における地上戦などによって、たくさんの市井の人々が、無残にも犠牲となりました。」と詳細な描写を入れて日本人がいかに大きな被害をうけたかを強調しようとしています。
第二次世界大戦では、ソ連は約2500万人、中国では2000〜3500万人の尊い命が失われていると言われているにも関わらす安倍首相は一切外国人の死者の数には触れていません。これは先の大戦の日本の責任を矮小化しようとしているとしか考えられません。韓国政府が主張している従軍慰安婦については「戦場の陰には、深く名誉と尊厳を傷つけられた女性たちがいたことも、忘れてはなりません。」で終わらせています。「何の罪もない人々に、計り知れない損害と苦痛を、我が国が与えた事実。歴史とは実に取り返しのつかない、苛烈なものです。」と言う表現からは何の反省の気持ちも伝わって来ません。
そして、この談話で私が最も引っかかるのは「あの戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」と言う文言です。犯した歴史は変える事はできず、未来永劫に日本人はその宿命を背負う必要があると私は考えます。負の歴史を知ることが平和な社会を祈る気持ちへと通じるものであると考えるからです。
そして「我が国は、いかなる紛争も、法の支配を尊重し、力の行使ではなく、平和的・外交的に解決すべきである」であれば、憲法九条に背いた安全保障関連法案などと言うものを何が何でも通そうとするのは大きな矛盾だと思います。
安倍首相が本当に、この様に考えていながら九割の憲法学者が違憲と言いきっている法案を何が何でも通そうとするのは、すでに彼は統合失調症の症状を表しているのでは無いかと思うほどです。
この談話には、謝罪とも取れる言葉や反省、遺憾の意などが数多く散りばめられており、最近良くマスコミが行うどの言葉が何個使われていたかなどと言うような評価方法においては「良い点」が取れるような文章になっているのだと思います。しかし、何一つ心に響くものは無い。それは有能なスピーチライターと法学者がアリバイ作りの為に拵えたものを、彼がただ読んで見せているだけだからだと思います。また彼のこれまでの言行不一致がこの談話も言葉のみだと感じさせるのかも知れません。ヴァイツゼッカー大統領の名演説「荒野の40年」からとったと思われる「心に留める」のフレーズも空虚に聞こえます。
今日戦没者追悼式で天皇陛下は短い追悼のお言葉を述べられたその最後に「ここに過去を顧み、さきの大戦に対する深い反省と共に、今後、戦争の惨禍が再び繰り返されぬことを切に願い、全国民と共に、戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し、心からなる追悼の意を表し、世界の平和と我が国の一層の発展を祈ります。」と述べられた。天皇皇后両陛下が時間の許す限り、先の戦争で戦場となったところに赴かれ、日本人犠牲者のみならず現地の犠牲者に対する追悼をライフワークとして行われていることは知られています。同じような言葉であっても言葉と行動が一致している天皇のお言葉は心に沁みるものでした。
今後ともブログ「ダンテの森」を宜しくおねがいいたします。
ブログ管理人 吉村皓一 |