優しく批判することに努めたメルケル首相
南ドイツ新聞 2015年3月9日
■日本とドイツは通常は協調しているような印象を与えている――しかし、今回の訪問ではメルケル首相はいくつかの批判的な課題も持っていた。
■日本は福島原発事故にも関わらず原発の再稼働をめざしていることと、第二次大戦における日本の戦争犯罪を無視する態度に出ていることである。
■この二つの問題をメルケルは、間接的にかつ大変優しい表現で指摘するにとどめた。
東京発:ロベルト・ロスマン(Robert Rosmann)
アンゲラ・メルケルは首相在任10年間で数百回の海外訪問をしているが今回のような出迎えは始めての事であった。「おはようございます。首相!」声をかけたのは、アシモと言う名の日本ではかなり有名な少年である。彼は、ホールの中を走り回りフットボールを蹴って全身で喜びを表現した。メルケル首相は大変喜んだ。アシモと言うのは人間では無く、人間に似せて作られたヒューマノイドと呼ばれるロボットのことである。
メルケルが東京に到着して最初に訪問したのが「未来博物館」であった。技術に強い首相を最初に出迎える役を仰せつかったのがアシモと言うわけである。歓迎が終わりに近づいた時に首相は突然アシモに近づき、ありがとうと握手をしようと手を差し伸べたが、残念ながらアシモはメルケルの意図を理解できずそれに反応することができなかった。
これに始ったメルケルの日本訪問で、メルケルを理解できなかったのはアシモだけではなかった。
メルケルは批判せず――説明するのみ
メルケルが東京に来たのは、バイエルン州エルマウで開かれるG7サミットの準備の為である。ドイツは、先進7カ国会議の議長国である。ロシア、ウクライナ、シリアなどの問題に対しては、ベルリンと東京の関係は大変に良好で両国は「手に手をとって」と言う感じである。しかし今回の訪問では、メルケル首相は、東京に対して少しでは有るがこの2年間にたまった不満を鞄に詰めて行った。
水曜日には福島原発事故発生から丸4年を迎え、日本におけるエネルギー政策はこの訪問では避けて通れない。安倍首相は、ドイツが間違った方向であるとする原発の再稼働を進めている。メルケル首相は、日本が他の諸国に向けて、頻繁にドイツとは反対の事を説いていることを知っており、それを批判することは避けることにしたのである。そして、そのかわりに何故ドイツが脱原発の道を選んだかを説明するにとどめた。
日本の有力紙の一つである朝日新聞の歓迎レセプションにおいてメルケル首相は、自らが原発推進に努めた専門家の一人であった事を強調して聴衆の興味を引くことに努めた。しかし彼女の努力が報われたとは言えず、同じ日の夕方開かれた記者会見で、安倍首相は福島原発事故の前日本の電力の1/3は原発であり、将来も原発をやめる気は無い事を冷たく言い放っている。
さらに気になったのは、安倍首相の別の問題に対する不理解である。今年日本は第二次大戦から70回目の終戦記念日を迎える。第二次大戦中日本も周辺国に対しひどい仕打ちをしているが、ドイツと違いその責任の所在を明らかにしていない。右寄り保守派の安倍は、戦争犯罪を相対化しようとした。彼の政府は、リベラルとして認められている朝日新聞にも注意を払っている。
安倍のチームは、この新聞が一年前に犯した従軍慰安婦に関する誤報を理由に、旧日本軍の従軍慰安婦問題そのものをなかった事にしようと躍起である。それを知るメルケル首相は彼女の意思表明として、ことさら朝日新聞を今回の訪問で選んでいる。
友好的であった天皇との会見
メルケル首相は、月曜日朝の日本政府との会合で直接的には言及することなく、自らの歴史認識を話す事からはじめた。ドイツは第二次大戦を始め、大量虐殺をおこなった責任があるのにもかかわらず欧州の仲間に戻してもらう事ができたのは、その責任が自らに有った事を明確にしたからであると述べた。過去の清算は「和解を得るための前提条件」であり、ドイツには周辺国からその理解を得る事ができたと言う幸運があった。
日本の公共放送テレビ局であるNHKは、メルケル首相のこのように綿にくるんだような間接的な表現での批判をどのように報道したか。月曜夜のニュースでNHKは、メルケル首相の最初の訪問先が朝日新聞であったことを報ずる事はなく、スピーチの内容も「ドイツには周辺国からその理解を得る事ができたと言う幸運があった」とメルケル首相が述べたところだけが報じられ、ドイツがその為に周辺国に対し戦争責任の所在を明確にしたことには触れることはなかった。記者会見における安倍首相も、この点に触れる事は無かった。
安倍もアシモも、メルケル首相の日本訪問に安らぎを与えることは無かったが、そのかわりに天皇陛下との語らいが際立って良いものとなった。天皇陛下は魚類と海洋生物の研究を長年続けておられ、メルケル首相にとっては気候変動と海洋汚染と言う二つの話題は次のG7のテーマでもあり話が弾んだ。ドイツ首相府は、天皇との会見は予定時間を大幅に超過したと鼻高々で発表した。それによると、メルケル首相はリヒャルト・ワーグナーの「タンホイザー」の直筆のピアノ譜面を贈呈したところ、チェロ奏者としてクラシック音楽に造詣の深い天皇は事の他お喜びになったとしている。
原文(ドイツ語)URL:
http://www.sueddeutsche.de/politik/besuch-in-japan-merkel-versucht-es-mit-hoeflicher-kritik-1.2384590
翻訳:ブログ管理人 |