ダンテの森    
20 Oct 2014   08:24:34 pm
国際社会に背を向ける日本
COP12が閉幕 平昌ロードマップと江原宣言採択
聯合ニュース2014年10月17日

【平昌聯合ニュース】韓国中東部の江原道・平昌で開かれていた生物多様性条約第12回締約国会議(COP12)が17日、閉幕した。会期中に「平昌ロードマップ」と「江原宣言」が採択された。

 平昌ロードマップは、2020年までの保全目標「愛知ターゲット」達成に向け、戦略や科学技術協力、財源投入、開発途上国の力量強化など主要政策別に推進事項を網羅する段階別の履行策。

 財源投入の目標策定をめぐり、途上国と先進国が対立したが、生物多様性のための途上国への財政支援規模を15年に倍増することで暫定合意。次回会議で財政規模を再協議することで一致した。

 15日から開かれたハイレベルセグメント(閣僚級会合)では江原宣言文が採択された。閣僚級会合の結果が宣言文の形で採択されるのは10年ぶり。

 江原宣言文には、15年より先の国際開発目標「ポストMDGs」に生物多様性の目標の強化を促すメッセージが盛り込まれ、議長名義で国連総会に提出される予定だ。また、韓国政府が提案した平昌ロードマップを支持し、財源確保の交渉進展を促す内容も含まれた。

 科学技術協力の強化のための「バイオブリッジ・イニシアチブ」「山林生態系復元イニシアチブ」「持続可能な海洋のための力量強化プログラム」など韓国が主導した生物多様性イニシアチブを歓迎する内容も盛り込まれた。 

 韓国環境部の関係者は「江原宣言が境界保護地域での生物多様性保全と平和促進の調和に向けた全世界の経験と力量を結集させ、南北非武装地帯(DMZ)での世界生態平和公園造成に大きな役割を果たす」と期待した。

 先月29日から3週間行われたCOP12は、名古屋議定書第1回締約国会議、世界地方政府首脳会議、閣僚級会合などが開催され、194カ国・地域の代表団、国際機関や非政府組織(NGO)、多国籍企業の関係者ら2万5000人余りが出席した。

 以上は、今日の聯合ニュースからであるが、去る14日に日本のメディアは、次のようなニュースを流していた。
原文URL: http://japanese.yonhapnews.co.kr/Politics2/2014/10/17/0900000000AJP20141017004000882.HTML

発効の名古屋議定書、日本は未批准…産業界慎重
読売新聞2014年10月14日

 動植物や微生物などの生物遺伝資源の利用に伴う利益配分の国際ルール「名古屋議定書」が12日、53か国と欧州連合(EU)が批准して発効した。

 先進国などの利用国が得た利益を提供国に分配する仕組みが動き出す。13日には締約国の初会合も開かれるが、4年前の議定書採択で主導的役割を果たした日本は、国内制度の整備などが遅れて批准できておらず、企業の研究などへの影響も懸念される。

 議定書は、2010年、名古屋市で開かれた生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)で採択。アフリカや東南アジアなど途上国や、EU加盟国などが批准し、今年7月に発効に必要な50か国に達していた。

 日本は批准に向け、議定書に基づく国内の運用ルール作りなどを進めてきたが、直接影響を受ける産業界や学術界との調整が進まず、発効に間に合わなかった。

原文URL: http://www.yomiuri.co.jp/eco/20141013-OYT1T50068.html

 以上が、10月14日の読売新聞であるが、この通り4年前の民主党政権時代に議長国を務め名古屋議定書をまとめ上げた日本は、批准していない。京都議定書の第二約束期間からも離脱しており、安倍政権はこと地球環境保護政策となるとことごとく反対である。安倍政権を操る新自由主義者たちは地球環境がどうなろうと、私たちの子孫がどうなろうと、現在の経済成長のことしか考える事ができない。国際社会が何をしようが、なりふり構わずひたすら経済成長のみを追い続けているのが現在の日本の姿だ。
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12 Oct 2014   08:21:34 pm
CO2ビジネス
CO2を積極的に利用する事でカーボンオフセットを進めるCO2ビジネスの台頭
ナショナルジオグラフィック・ニュース2014年10月10日より
Peter Schwartzstein
for National Geographic News
October 10, 2014

 二酸化炭素(CO2)の排出量を削減し、地球温暖化を食い止めようという取り組みはなかなか進まない。だが、企業がCO2から利益を得ることができるとしたらどうだろう?

 CO2が商品となる日はそう遠くなさようだ。米国だけでも多くの企業が、排出されたCO2を漂白剤、ベーキングパウダー、自動車のシート、オムツ、燃料などの日用品の製造に必要な化学物質に変換させられないかと試みている。これらの企業は環境保護に貢献しているだけではない。こうした試みは商業化されつつあり、企業は堂々と利益を追求している。ジェット燃料だけでも2010年の市場規模は2000億米ドルに達しており、将来性のあるビジネスとして注目されている。

「世界は炭素回収の方向に向かっている。これがビジネスになるとわかれば、ますます積極的に取り組む企業が増えるだろう」と、テキサス州オースチンの企業、スカイオニック(Skyonic)社のスポークスマン、ステイシー・マクダイアミッド(Stacy MacDiarmid)氏は語った。

 同社は、発電所等、CO2排出量の多い産業拠点の近くにプラントを設置し、排出されるCO2を回収する。回収したCO2に塩や水を加え、電気を使って高純度の炭酸水素ナトリウム(重曹)、塩酸や漂白剤を生産する。同社は今月末にも最初の商業的CO2回収プラントを建設する予定で、この事業から5000万ドルの年間収益を見込んでいるという。

 マサチューセッツ州ベッドフォードに拠点を置くジュール(Joule)社も注目すべき企業だ。(Joule社URL: http://www.jouleunlimited.com/ )遺伝子操作した藍藻を触媒にCO2と日光、水を化学反応させ、自動車用燃料を作る。

 このテクノロジーではCO2という廃棄物から直接、燃料を作ることができるため、化石燃料を使用する必要がない。

 ジュール社が開発する燃料は燃焼エンジン内で使用でき、理論上は電気自動車を利用しなくても、環境に負荷をかけずに自動車を走らせることができる。うまく行けば、この燃料は1バレル50ドル(1リットル当たり約32セント=約34円)ほどで販売される見通しだ。

 大気中のCO2の有効利用はビジネスとしても、また環境保護の観点でも大きな効果が期待出来る。現在、温暖化対策の切り札とされているCO2の回収貯留(CCS)技術から大きなステップを踏み出すことになる。CCSとは、廃棄物からCO2を分離し、加圧により液体化して地中の適した地層に埋め、長期間貯留する技術だ。この方法を使えば、大気中からCO2を取り除くことはできるが、かかるコストが非常に大きいため、商業的なインセンティヴがない。

 燃料やケミカルの分野は市場規模が大きいため、CO2を有効利用すれば、利益が生まれるだけでなく、大気中のCO2量を大幅に削減することができる可能性がある。

 プラスチック容器や塗料、マットレスのクッション材、紙おむつの基本材料であるポリマー分野でもCO2の利用が可能だ。マサチューセッツ州ウォルトハムのノボマー(Novomer)社がこれに目を付けた。現在、ポリマー業界では採掘量全体の7〜8%の石油やガスを使用しており、環境に大きな負荷をかけている。

 ノボマー社の技術で、化石燃料の使用量が半分に削減されるという。独自の触媒を使い、CO2または一酸化炭素中の炭素分子を一般的な化学原料と反応させる。CO2はプロピレンや酸化プロピレンなどの石油由来の原料の50%を代替する。同社は、ガス会社からCO2を買い取ることで、生産コストを現在の20分の1に削減できる見込みだという。

 自動車、靴、家具、テキスタイル用の熱溶融性接着剤、住宅・ビル用硬質フォーム断熱材、そして金属、プラスチック、木材の加工・保護用コーティング材などを製造販売している。

原文URL: http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20141010001

 今後は、この類の環境負荷を軽減することを標榜する新技術やビジネスモデルが数多く出てくることと予想される。社会が環境と共生し、少しでも環境に優しい営みをしようとすることが、持続可能な開発となる重要なことである。しかし、その実施に当たっては設備の建設による資源の消費とエネルギー消費の量と運転に掛かるエネルギー量と、オフセットできるCO2の量とのトレードオフを良く検討し、遺伝子操作などのバイオ技術を利用の際には生物多様性の見地からその影響を考える事が肝要である。
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09 Oct 2014   11:36:40 am
気候変動は真の脅威
気候変動は国民の脅威 ――広島以外でも続く環境災害
毎日新聞2014年10月8日夕刊 加藤三郎さんの寄稿から

 今年の夏は、豪雨による洪水や土砂崩れが猛威を振るい、多くの大切な命と平穏な暮らしが一夜にして奪い去られた。広島での災害が余りにも強烈な印象を与えたのでつい今年だけが特異な夏だと思いがちだが、昨年も、京都市、秋田県仙北市、伊豆大島などで同様の災害が起こり、埼玉県熊谷市では大規模な竜巻被害が発生した。

 このところ、夏場に限らず日本列島のどこかで異常気象現象が発生し、国民の生命と暮らしが翻弄されるようになった。これは日本だけの問題では無い。世界のニュースを注視すれば、先進国、途上国を問わず生起している環境災害であることがわかる。今年の米カリフォルニアにおける大干ばつや猛烈な山火事の発生。昨年11月にフィリピンのレイテ島などを襲い、破壊の限りを尽くした台風30号の傷跡は今も生々しく思い出される。
 気象学者が、地球温暖化が進めば起こり得ると警告していた事象が、学者が遠慮がちに提示していたより激烈な力を持って、私たちの目の前に現れるようになった。恐怖を感じる人も多かろう。地球大気の気温が急速に上昇し、それに伴い海水温(深海も含めて)も上昇して、海洋自体が湯たんぽ状態になり、蒸発水量が増える事で、かつて経験した事の無いような豪雨になったり、スーパー台風になったりして、人間社会に襲い来るのである。先日の台風18号もその一つだ。

 ところで安倍晋三首相は、集団的自衛権の行使容認に関しては、繰り返し「命を守り、平和な暮らしを守るのが、総理大臣である私の責任」と発言し、現実に起こり得るあらゆる事態に、万全の備えをしていくと強調している。確かに近年の東南アジアにおける軍事的緊張の高まりを見れば、国を預かる首相としてあらゆる事態を想定し、対応しようとするのは当然であろう。しかし、首相にとって国民の命と平和な暮らしを守る責任の対象は軍事的な衝突だけなのだろうか。そんな思いが、私には日増に強くなってきている。
 今年2月、ケリー米国務長官は、大雨・洪水に苦しめられているインドネシアの首都ジャカルタで、気候変動は「大量破壊兵器」の域に達した旨発言した。英国の首脳は気候変動の脅威は今や安全保障の問題となったと捉え、その観点から警告を発している。国民の生命や暮らしを脅かすものは、ミサイルや潜水艦だけでなく、ますます強力になる台風、ハリケーン、ゲリラ豪雨、竜巻などの気候変動も同様だとの認識が、世界の政治主導者の間で共有されつつあるのである。

 安倍政権が発足して間もなく2年。この間、成長戦略や原子力の再稼働にはことのほか熱心だが、気候変動政策には見るべきものがない。先般の所信表明演説を見ても、私には首相がこの問題に関心を持っているとは感じられない。
 ミサイルも、潜水艦も、確かに怖い。しかし、突然襲ってくるゲリラ豪雨やスーパー台風によって、現実に国民の命と平和な暮らしが失われている。気候変動の専門家が指摘しているのは、こうした現象はまだ序の口であり、これから先も気温の上昇に伴うさまざまな危険が予想されると警告している。それなのに、安倍政権は温室効果ガス削減のまともな目標を決めておらず、米政権でさえ実施しようとしている排出規制措置の検討すらせず、産業界の自主行動に任せる姿勢を取っているのは心配だ。
 これで国民の命と暮らしが守れるのか、疑問に感じざるを得ない。9月23日、米ニューヨークで国連機構サミットが開催された。米国のオバマ大統領は、大量排出国である米中には特別な責任があるとした上で、2020年以降の枠組み作りに意欲を見せたが、安倍首相は、途上国支援は約束したものの肝心の国内の排出削減には触れずじまいだった。第一次安倍内閣で温暖化対策にも力を入れていたことを思い起こし、この重要課題に一刻も早く取り組んでほしいものである。

加藤三郎(かとう・さぶろう)さん、環境文明21共同代表の略歴:
昭和14年、東京生まれ。昭和39年東大工学部卒。昭和41年東大修士課程修了。
昭和41年厚生省に入省。昭和46年環境庁大気規制課長などを経て平成元年環境庁地球環境部長などを歴任。平成5年退官後、「環境文明研究所」を設立。同年9月「NPO法人 環境文明21」共同代表。
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07 Oct 2014   11:16:15 am
平均気温停滞の謎
温暖化に挑む:平均気温の伸び停滞、なぜ 解明進む「ハイエイタス」現象、再上昇へ警告も
毎日新聞 2014年10月03日 東京朝刊から

 世界の地上の平均気温は20世紀後半以降上昇傾向にあり、人間活動による二酸化炭素(CO2)など温室効果ガス排出量増加が原因とみられている。だが今世紀に入り、排出量は増え続けているのに平均気温の伸びは鈍っている。「ハイエイタス(中断、停滞)」と呼ばれるこの現象の原因解明に向け、世界中で研究が進んでいる。

 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第1作業部会が公表した第5次評価報告書によると、地上の平均気温は1880〜2012年に0.85℃上昇した。10年単位でみると、最近30年は19世紀後半以降のどの年代よりも暑かった。だが今世紀に入ってからは、10年当たり0.03℃上昇とほぼ横ばい。この現象がハイエイタスだ。一方、CO2濃度の上昇率は、1990年代は年約1.5ppmだったのに対し、最近10年は年約2.1ppmと増加した。

 コンピューターで長期的に気候を再現・予測するシミュレーションモデルでは、2000年ごろまでは、実際に観測された気温上昇をよく再現していた。だが、ここ10年ほどは温暖化を過大に再現する傾向にある。その原因について、渡部雅浩・東京大准教授(気候力学)は、人間活動などが関係しない自然の変動▽小規模な火山噴火▽太陽活動による日射量の減少−−などをあげる。

 ●自然変動の影響で

 どの原因がどの程度影響しているかを数値化するには、まずシミュレーションで現実を再現することが必要だ。シミュレーションは実際の大気や海洋の観測データを与えずに、コンピューター上の計算だけで気温の変化などを示すのが基本だが、渡部さんらのチームは、過去の観測データを追加し、ハイエイタスが再現されるかどうかを調べた。

 着目したのは、熱帯域の海洋上の風の変化だ。これまでの研究で、人間活動の影響を受けた温暖化傾向とは関係ないことが分かっている。1958〜2012年に観測された熱帯海洋上の風向、風速のデータを加えて計算した結果、従来のシミュレーションでは2000年以降も右肩上がりだった地上の平均気温が観測値とほぼ同じになった。一方、同じ条件で温室効果ガス増加を考慮しない計算では実際より0.6℃度程度低くなった。

 この再現を基に、地上の気温を左右する自然変動の影響度合いを数値化すると、1980年代は47%、1990年代38%、2000年代27%となった。これらのことから、1980〜1990年代は温室効果ガス増加に地上の気温を上昇させるような自然変動が重なり、気温上昇も加速。一方、2000年代は気温を低下させるような自然変動があったが、それを上回る温室効果ガスの影響が出てほぼ横ばいにとどまったと推測された。

 渡部さんは「シミュレーション結果と観測結果がずれているのは説得力を欠く。次のIPCCの報告書に向け、観測値を与えなくてもハイエイタスが再現できるようなシミュレーションを数年以内に実現したい」と話す。

 ●深海域に熱が蓄積

 海の熱吸収に着目した研究も進む。米ワシントン大と中国海洋大の研究チームは、水中を上下に移動できる装置を使って、世界中の海水面から水深1500メートルまでの熱の動きを追跡。その結果、気温上昇が止まり始めた1999年以降、大西洋や南極大陸を取り巻く南大洋では、海盆と呼ばれる深海域まで熱が蓄積されていることが分かった。

 地表面に蓄えられる熱の約9割が海に存在するため、チームは「海に熱が蓄積しなければ、地球温暖化に拍車をかけていただろう」と推測。さらに、過去には同様の現象が20〜35年続いていたとして、「今後15年間程度で、熱が海水面に戻ってくる可能性がある。温暖化の勢いは再び増すのではないか」と警告する。

 米海洋大気局(NOAA)のマイケル・マクファデン研究主幹は米サイエンス誌に「温暖化の懐疑論者はハイエイタス現象を理由に、温暖化が起きていないと社会を混乱させようとしているかもしれない。だが、少なくとも海洋は温まり、地球の温暖化は続いている」とコメントした。

 今年の春(3〜5月)の平均気温は、この30年平均に比べ、0.28℃、夏(6〜8月)は0.31℃高く、1890年の統計開始以来最も高かった。地球温暖化対策をめぐる国際的な枠組みづくりは遅れており、国立環境研究所の江守正多室長は「ハイエイタスと言われているにもかかわらず、気温の最高記録が出ている。このデータを直視し、国際社会は温室効果ガス削減策や被害軽減策の議論に真剣に向き合ってほしい」と話す。【大場あい、田中泰義】

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 ◇ハイエイタス(hiatus)

 英語で「中断」の意味。気候の研究では、地球全体の地上の平均気温の上昇率が横ばいだったり、低下傾向になったりする状態を指す。米国大気研究センターのチームが2011年ごろから使い始め、地球温暖化の停滞を意味する言葉として広く用いられるようになった。

原文URL: http://mainichi.jp/shimen/news/20141003ddm013040035000c.html
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01 Oct 2014   10:42:14 pm
メディアの傾向
月いち!雑誌批評:朝日批判加速の危険=山田健太
毎日新聞 2014年09月22日 東京朝刊より、

 今年、集団的自衛権容認の閣議決定など有事対応をめぐる論戦が雑誌で繰り広げられてきた。それが一連の朝日新聞の問題を契機に8月に一変した。慰安婦をめぐる歴史認識や対東アジア外交、米軍基地建設に関し、政府方針を後押しする言説に報道界全体が覆われつつある。従来、韓国たたきと慰安婦問題追及の中心を担ってきた週刊誌群は、口を極めて朝日批判を加速させている。ジャーナリストの池上彰さんの連載を朝日新聞が見送ろうとした問題をスクープした「週刊新潮」は、9月11日号ほかで大特集を組み続けている。9月4日号で「朝日新聞『売国のDNA』」を見出しに取った「週刊文春」もトップ記事が毎号続く。

 朝日新聞が両誌の一部の広告掲載を拒否したが、この問題は表現の自由を侵害するものとしてこれまで裁判でも争われてきた重大テーマだ。ただ今回、特定の対象を「売国奴」「非国民」と決めつけた表現は、批判者排除の論理そのもので、掲載の是非以前にメディアが使用を自制すべきであろう。

 少しさかのぼると、「フライデー」2月21日号「安倍自民の『国民締め付けと教育』が始まる」や「週刊現代」2月15日号「誰かが止めないと、安倍総理は戦争を始めるわよ」、「週刊プレイボーイ」1月13日号「自民党が次にゴリ押しする『恐怖のトンデモ法案』大全」など、政府方針に批判的な記事も少なくなかった。「週刊ダイヤモンド」も6月21日号で「自衛隊と軍事ビジネスの秘密」を組み、軍需産業の実態と将来像を示している。以前から経済界は、集団的自衛権の容認や武器輸出三原則の撤廃を求めてきたが、背景にビジネス拡大の契機としたい思惑があることがわかる。

 月刊誌にも「朝日新聞」を表紙タイトルにする雑誌が相次ぎ、有事論争は片隅に追いやられている。「週刊現代」も「朝日新聞の罪」を続けて特集している。批判の対象が入れ替わったことで、外交・防衛上の転換期にある日本で言論の多様性が失われかねない状況が生まれている。「週刊文春」の池上彰さんのコラム「罪なき者、石を投げよ」(9月25日号)は、批判に便乗する言論報道機関の態度を厳しく戒めている。騒動の渦中にあり謝罪会見のきっかけともなった本人の言葉だけに重く受け止めてほしい。=専修大教授・言論法
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